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特集 / フォトツアー

公式カメラマン・金本凜太朗から見る「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」

 

【前編:中里・津南・十日町エリア】公式カメラマン・金本凜太朗による、越後妻有のフォトツアーをお届けします。さまざまな視点で切り取られた写真の数々で、越後妻有に行きたくなること間違いなし!

Photo by Kanemoto Rintaro

29 August 2024

Photo Kanemoto Rintaro

「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」では200点以上の恒久作品とともに、100点近くの新作・新展開作品が越後妻有地域を彩っています。今回はそんなトリエンナーレのリアルな様子を、公式カメラマン・金本凜太朗の視点からフォトツアーにてお届けします。

プロフィール

金本凜太朗

1998年、広島県生まれ

小学生の頃趣味だった野鳥観察をきっかけに写真を始める。2020年にフリーランスとして東京を拠点に活動を開始。雑誌・WEB・広告など幅広いジャンルで撮影を手掛けるほか、作品集の制作や写真展の開催など自身の作品制作も精力的に行う。
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越後妻有の入り口、大地の芸術祭のコンセプトを体現する施設

磯辺行久記念 越後妻有清津倉庫美術館[SoKo]
Photo Kanemoto Rintaro

越後湯沢駅から越後妻有に向かう道の入り口となるのが磯辺行久記念 越後妻有清津倉庫美術館[SoKo]。ここでは大地の芸術祭構想当時から越後妻有に関わってきた磯辺行久の、これまでの活動や地域に対するまなざしを垣間見ることができます。大地の芸術祭の作品が展開している越後妻有地域(十日町市・津南町)の地勢を深く理解できるでしょう。

今年の磯辺行久は秋山郷の清水川原にて、鈴木牧之の『秋山記行』をもとに生み出された作品≪驟雨がくる前に「秋山記行」の自然科学的視点からの推考の試み-1≫を公開しています。このプロジェクトを空中写真から再現した、ダイナミックな展示を清津倉庫美術館体育館でお楽しみいただけます。

山本想太郎により改修設計された旧清津峡小学校(磯辺行久記念 越後妻有清津倉庫美術館[SoKo])。
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清津倉庫美術館校舎棟
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抜けのいい里山の原風景が作品の舞台に

ダダン・クリスタント≪カクラ・クルクル・アット・ツマリ
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インドネシア出身の作家、ダダン・クリスタントにより2006年から続く作品。バリ島の農業の光景が、風が吹くと「カラカラ」という涼しげな音色とともに動き出します。今年は越後妻有の農作業シーンも作品に組み込まれ、アップデートされています。作品公開は3年に一度、トリエンナーレ会期中のみとなるのでお見逃しなく!

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カクラ・クルクル・アット・ツマリ≫はオフィシャルツアーC:津南・中里コースにてご覧いただけます。
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地域を支える産業の場×アート

ニキータ・カダン(ウクライナ)≪別の場所から来た物
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越後妻有地域には日本で最も長い川である信濃川が縦断しているため、水力発電が盛んな地域でもあります。今回、ニキータ・カダンによる作品が展示されている場所は、東京電力信濃川発電所連絡水槽という施設。ここは長野県で取水した水を新潟県内の信濃川発電所に送る導水路の経由設備で、通常は地下を通る導水路が一旦地上に顔を出す場所です。

この不思議な形をした設備の隣に、カダンは子どものころによく目にしたロケット型の遊具と衛星をモチーフとした彫刻を展示していますが、私たちは遊具に近寄ることはできません。

使われなくなった店舗から、営業中のお店まで。大割野商店街で街歩き

かりんの街灯が目を引く、大割野商店街
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新垣美奈≪Lights to Tsumari(妻有への明かり)≫(風巻履物店)
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東京から越後妻有の道のりにある夜景をモチーフとしたドローイングが、数店舗に散りばめられています。

加治聖哉≪思い出の在り方
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昨冬の津南雪まつりの際に、作家の加治聖哉が子どもたちと色塗りワークショップを行いました。そこで生み出されたカラフルな廃材を用いて、かつての洋品店・旧かなやまにて一匹の龍として現れます。龍の姿は実際に作品を見てのお楽しみに。

佐藤悠≪大割野おみくじ堂≫(旧大口百貨店)
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布施知子≪おりがみ:みんなで作る津南の森≫(旧大口百貨店)
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旧かなやま
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おかあちゃんたちが大活躍!地域の食を堪能できるランチ

越後妻有「上郷クローブ座」(津南エリア)

Photo Kanemoto Rintaro

EAT & ART TAROの監修により2015年から続く、≪上郷クローブ座レストラン≫。原倫太郎+原游による脚本で、今年も地域の女衆(おんなしょ)と呼ばれるおかあちゃんたちが津南の食材を生かしたメニューを演劇仕立てで振舞います。おかあちゃんたちが細部までこだわって作った衣装や小道具も要注目! 演劇の内容や衣装は現地でお食事と一緒にお楽しみください。
※7/13-11/10の金土日祝限定
※要事前予約制

越後妻有「上郷クローブ座」
Photo Kanemoto Rintaro

上郷クローブ座では、岡淳+音楽水車プロジェクトによる≪農具は楽器だ!≫も作品がアップデート。地域の方々の協力で集まった民具や農具を、楽器として再生しています。写真は樽を解体して木琴に。
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うぶすなの家(十日町エリア)

Photo Kanemoto Rintaro

十日町エリアの北部に位置するうぶすなの家では、市街地から離れた茅葺屋根の古民家ならではの佇まい。穏やかな時の流れを感じられるとともに、元気はつらつのおかあちゃんたちがお出迎え。この土地や作品、芸術祭との関わりについても話してくれます。

Photo Kanemoto Rintaro

写真に並ぶお品には、なんとメイン料理が写っていません。うぶすなの家のランチは豪雪地ならではの保存食を生かした豊富な副菜メニューが魅力的。今年は日替わりの小鉢に加えて、妻有ポークを使用したいなりバーグもしくは車麩と生揚げをメインとした定食をお楽しみいただけます。メニューの詳細はこちら

≪うぶすなの家≫
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館内は焼き物のミュージアムとして作品の展示もされており、宿泊も可能です。
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うぶすなの家からさらに少し奥へ進んだところにある、古郡弘≪胞衣–みしゃぐち≫にもぜひ足を延ばしてみてください。

市街地のオアシス、越後妻有里山現代美術館 MonET(モネ)

ヌーメン/フォー・ユース(クロアチア、オーストリア)≪Tape Echigo-Tsumari≫[企画展]モネ船長と87日間の四角い冒険
Photo Kanemoto RintaroPhoto Kanemoto Rintaro

加藤みいさ≪溢れる≫[企画展]モネ船長と87日間の四角い冒険
Photo Kanemoto Rintaro

ジュール・ヴェルヌの小説『海底二万里』に登場するネモ船長になぞらえた企画展≪モネ船長と87日間の四角い冒険≫を、美術館回廊と明石の湯にて開催中。

ターニャ・バダ二ナ≪白い服 未来の思い出≫越後妻有里山現代美術館 MonET館内

白と光をモチーフとして作品を作り続けるターニャ・バダ二ナ(ロシア)の新作。畑や山で作業する際に使われる野良着をもとに作られた“白い服”は、一枚一枚絵柄が異なるうえに、越後妻有ならでは意味が込められた作品となっています。

美術館館内ではほかにも海外作家による圧倒的な新作をお楽しみいただけます。

越後妻有里山現代美術館 MoneT
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≪明石の湯≫エントランス
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ミュージックショップのお立ちよりもお忘れなく
(Echigo-Tsumari Art Field グッズ)
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世界と地域が交差する時間

ナウィン・ラワンチャイクン+ナウィンプロダクション(タイ)≪赤倉の学堂

ナウィン・ラワンチャイクン+ナウィンプロダクション(タイ)≪赤倉の学堂≫

ナウィン・ラワンチャイクンは世界的名画であるラファエロの≪アテネの学堂≫を模して、2015年に赤倉の住民を大きな絵画に描きました。2022年には作家の故郷である、タイのチェンマイの人々を描いた絵画が完成し、今年はこれらの作品が旧赤倉小学校の体育館と校庭に向き合うように展示されています。

Photo Kanemoto Rintaro

≪赤倉の学堂≫の位置する赤倉集落は、かつて二人の落武者よって拓かれたという地域。作品が展示されている旧赤倉小学校に通った卒業生の方が、受付に入ってくださることもあります。校舎に残る記憶や、作家が築き上げてきた地域との関係性が色濃く感じられる、まさにサイトスペシフィックな作品です。

旧赤倉小学校
Photo Kanemoto Rintaro

旧赤倉小学校の館内に飾られている思い出の品々
Photo Kanemoto Rintaro

前編では中里・津南・十日町エリアを中心に、公式カメラマン・金本凜太朗の写真とともに作品をいくつかご覧いただきました。まだまだご紹介したい作品が沢山ありますが、ぜひ現地にて土地・時間・ここで暮らす人々との交わりを芸術祭作品を通してご体感ください。

テキスト:丸尾葉那(NPO法人越後妻有里山協働機構)

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