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芸術 / 伊藤誠

奴奈川キャンパス企画展「上を向いて歩こう」

芸術 / 伊藤誠

奴奈川キャンパス企画展「上を向いて歩こう」

空間を体験することが【形をつくる】

インタビュー:伊藤誠

04 August 2023

7月29日から大地の芸術祭の通年プログラム「2023年の越後妻有」の夏企画展やイベントが続々スタート。2024年の第9回展に向けて、奴奈川キャンパスでは五感を使って楽しめる施設として作品を展開していきます。その先駆けとして、作家・伊藤誠の企画展「上を向いて歩こう」を開催するにあたり、伊藤さんにお話を伺いました。

【形をつくる】ことへの探求

――2000年に松代城山につくられた芸術祭作品《夏の三日月》は、造形的な作品だったかと思いますが、今回は体験型の作品ということで、この20年間で作品制作への意識変化があったのでしょうか?

【形をつくる】ということは、今でもやっていますし、ずっと続けています。今回の「上を向いて歩こう」という作品は、形をつくり続けるなかで【空間を経験する】ということが何なのだろうか?と思ったことがきっかけです。【空間を経験する】ということはパブリックアートをみんなで経験するということですよね。だけれども、本当にみんなで同じ経験をしているのだろうか?という疑問から生まれたものです。

《夏の三日月》(2000年)photo:ANZAÏ

《夏の三日月》2023年 作家視察時の様子

プロフィール

伊藤誠

1955年名古屋市生まれ、1983年武蔵野美術大学大学院彫刻コース修了。1996年より1年間、文化庁派遣芸術家在外研修員としてアイルランドに滞在。80年代より様々な方法で同時代の彫刻をテーマとした制作発表を始め現在に至る。パブリックコレクションとして東京国立近代美術館や千葉市美術館などに収蔵されている作品に代表される、原理的な形体を特徴とした作家として知られるが、その制作展開は2000年「夏の三日月」(松代エリア)に代表されるサイトスペシフィックな作品から、2010年に始まり現在に至る、装着可能な「Boat」のシリーズ、2017年制作の「10話」等の紙媒体のマルチプル作品まで多岐に渡る。

上を向いて歩こう

奴奈川キャンパスでの作品(装置)は、体験する道具であると同時に、パフォーマンスの道具であったりもします。装置を着けている人は実際に作品を体験していますが、その光景を見ている人にとっては、他人が作品を体験している状態そのものがパフォーマンスである、という要素が強いのではないかということですね。

パフォーマンスの要素として、この装置をつけると身体的な制限がかなりかかりますから、ゆっくり動いたりと、普段とは違う動きになる。装置を身体の前に着けるから、どうしてもバランスをとらなくてはいけなくなります。もうひとつは、その状態自体が具体的な【形をつくる】という行為になっていることです。

ここにはいろいろなタイプの作品がありますが、初期のものとして装着する人の体型に合わせてつくったものがあります。子ども用のものもあれば、2メートル以上のものもあります。自分の視点を合わせてもよいですが、さまざまな視点を意識した見方もよいかと思います。

奴奈川キャンパス展示風景(Photo by Yanagi Ayumi)

(Photo by Yanagi Ayumi)

よく見ると、ここには武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパスで行われた「Mのたね」*¹という展示の時のものも入っています。それは無印良品の素材を使ってつくったものです。キャプションには素材ではなく、無印の製品名が書かれています。

「Mのたね」で展示した作品(Photo by Yanagi Ayumi)

入口近くに展示してあるものは装着するだけでなく、物として展示できるものでもあります。展示の配置も一つの鏡を覗いたら、もう一つの鏡の景色が映るというような、合わせ鏡のような要素も考えていました。

入口付近の展示作品(Photo by Yanagi Ayumi)

*¹「Mのたね」
MUJIcom武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス店内にて2020年に開催された、武蔵野美術大学教員・助手による展示。株式会社良品計画の商品や活動を活かした作品の展示が行われた。

作品を体験することで生じる、身体と意識の調整

――2009年にはすでに「引込線」*²というプロジェクトにて、「上を向いて歩こう」を公開されていましたが、その時からお客さん自体がパフォーマーになるという体験型の作品を考えていたのでしょうか。

この時の「引込線」では、作品を見る場所というよりも、場所そのものに興味が出てきていたかもしれません。そういえばこの時、舞踏家の田中泯さんがこの作品のところで「場踊り」を行ったのですが、その時、田中泯さんは身体に対して異なる意識を覚醒させて特別な動きを導き出すためのきっかけの一つとして、このようなこと(「上を向いて歩こう」の作品体験に近い行為)をやったことがある、とは言っていました。

「引込線」展示・体験の様子(撮影:山本糾)

――この体験こそが身体の調整であったり、鍛えるということなのですね。

形を作ることに対しても同じようなことが言えて、作られた形にその見方を更新する力があれば、毎回毎回初めてその形を見るような意識になるのではないかと思います。意識が更新されるきっかけとは何か、それがどんな一連の空間の体験なのか、ということに着眼することは、ずっと形を作り続けてきて重要なことではないかと思っています。

(Photo by Yanagi Ayumi)

身体と意識という五感を刺激する本企画展は、2023年7月29日~8月27日(土日祝)で公開いたします。ぜひ皆さんも作品を装着して、空間を体験しにいらしてください。

テキスト・編集:丸尾葉那/NPO法人越後妻有里山協働機構

*²「引込線
2008年に、埼玉県所沢市在住の芸術家たちによって、所沢駅前の元鉄道車両整備工場から出発した自主企画の芸術プロジェクト。


奴奈川キャンパス企画展「上を向いて歩こう」

奴奈川キャンパス

会期| 7/29(土)~8/27(日)土日祝
時間|10:00~17:00(12:00~13:00は体験できませんのでご了承ください。見学は可)
場所|奴奈川キャンパス(新潟県十日町市室野576)
料金|奴奈川キャンパス入館料に含む(一般:500円)

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