特集 / ディレクターズコラム
4月29日から145日間にわたる「越後妻有 大地の芸術祭 2022」が開幕。それにあわせて、今回の新作や見どころや”あれこれ”を、総合ディレクター・北川フラムが綴る新連載「大地の芸術祭あれこれ」がスタート。
文:北川フラム
14 May 2022
ゴールデンウィークと山菜取りの季節も終わり、妻有は稲作への作業に入ります。今年はこの間も大地の芸術祭が続き(火・水休日)、作品をゆっくり楽しめるようになっています。私は追悼ツアーと催事の見学もしますので、皆さんも催事にあわせて作品巡回にいらしてください。
さて、5月6日に行われたジャン=リュック・ヴィルムートの追悼の集いの前に作品巡りもしましたので、その報告です。
ジミー・リャオの二つの作品がJR飯山線の土市駅と越後水沢駅にあり、今も人気が高いです。ジミーさんは台湾出身ですが、その絵本が素晴らしく、世界中で翻訳されています。2014年に何度か妻有に来られて、住民と一緒に活動し、都会の少年が妻有のおじいさんを訪問するという仕立てで、二つの小さな美術館を作りました。
“Café Reflet” by Jean-Luc Vilmouth (2003) photo by ANZAΪ
ジミー・リャオ「Kiss & Goodbye」(土市駅) photo Ishizuka Gentaro
久しぶりに行ったのですが、ゆっくり見ると実に楽しい。土市ではポチの家のような駅付近の長閑な風景のなかに、フクロウの形をした鳥が二羽乗った、妻有特有のカラフルなカマボコ型倉庫があり、その中に心暖まる絵本が展示されていて、正面の映像を子どもと犬が見ているものです。越後水沢駅には、屋上に男の子がいて、中にはブランコにのった女の子がいるもので、これは金属の線でかたどった犬のカマボコが地上から浮いています。二つながらに見ごたえがあるものでした。ひとつひとつの場面は私たちが初めて列車に乗った時に味わった懐かしい風景です。
ジミー・リャオ「Kiss & Goodbye」(越後水沢駅) photo Yanagi Ayumi
この後に「磯辺行久記念 越後妻有清津倉庫美術館」に行きましたが、ここには天才画家と謳われた磯辺さんの、初期からの作品があるうえに、2000年からの大地の芸術祭で行われたプロジェクトがわかるようになっていて、土地というものの決定的な力と、それを妻有という地域ではどうなってきたか、大地の芸術祭はそれをどう捉えたかが分かるダイナミックなもので、時々行くと、いつもは忘れがちな自然に関わる方法としての美術について考えさせられます。
『幸せのきっぷ: Kiss & Goodbye (現代企画室/ 2015)』
磯辺行久「WORK ’65 (象Ⅱ)」
磯辺行久記念 越後妻有清津倉庫美術館[SoKo]
磯辺行久記念 越後妻有清津倉庫美術館[SoKo]
夕方には桐山に行きました。夕日が落ち始める黒姫山をバックに、山に抱かれ、棚田の美しい今や数件になった集落ですが、ここにはリチャード・ディーコン(イギリス)の屋外作品≪マウンテン≫、マーリア・ヴィルッカラ(フィンランド)の≪ブランコの家≫、クロード・レヴェック(フランス)の≪静寂あるいは喧騒の中で/手旗信号の庭≫と、傑作が三点もあるのです。
リチャード・ディーコン「マウンテン」(2006)photo Nakamura Osamu
クロード・レヴェックの家の周りには風で動く二枚羽の金属板があって、周りの風景や光をランダムに映し込んでいて、この雰囲気がまたいいのです。一階には地中のマグマの中にあるかのような赤色の岩が光りかつ弱まるもの。二階には3室あって、八角形の大きな灯篭がピンクに光っていますが、よく見ると何か所かで水泡が動いています。中の部屋は青い部屋で、田ころがしの塔が回転しています。もうひとつは赤いサークル。これら全体は、ものの発生現場のような感じでなかなかの迫力でした。
クロード・レヴェック「静寂あるいは喧騒の中で/手旗信号の庭」(2009、2012)photo Nakamura Osamu
クロード・レヴェック「静寂あるいは喧騒の中で/手旗信号の庭」(2009、2012)photo Miyamoto Takenori + Seno Hiromi
マーリア・ヴィルッカラは前回から作品を一新しましたが、これが不思議な時間が漂う、気持ちが洗われるような作品でした。手前の板の間には、昔どこの農家にもあった藁やものを編んだりするための歯車、滑車があり、そこにブランコが吊ってあってゆっくり動いています。空中には黄金の草履、中の部屋には囲炉裏が切ってあって奥の部屋には水が入ったコップがのっている小さなブランコが動いていて、壁に作るその影が大きくなったり、小さくなったり、全体に家の時間が感じられるものでした。藁ぶきがはりや柱にかかった2階にはミシンがあり、壁にはカンジキやミノなどがかかっていて、階下のすっきりした茶室のような空間に対して、雪国の農家の日常、そこに子どもたちの気配があるというものでした。塗りこめられた壁の部分部分にはルネサンス絵画のイコンも見えました。すべてに黄金の草履があったのは時間を超えた、そこに住んだ親や子供たちの生命の輝きのようにも見えるのです。
マーリア・ヴィルッカラ「ブランコの家」(2012)photo Nakamura Osamu
さて、今日からいつもの、しかし「大地の芸術祭をやっている」越後妻有です。雪解けが遅いエリアの作品は6月2日公開としていましたが、そのうち20以上の作品が5月21日には公開できそうです。また、例年通りのいわば夏会期は7月30日からですが、早く完成できそうな新作は以下のスケジュールでの公開を目指しています。
(※作品繰り上げ公開の日程は調整中となり、確定しましたらHPにて正式にご案内いたします。)
【7月初旬】
クリスチャン・ボルタンスキー、淺井裕介、ナウィン・ラワンチャイクン+ナウィンプロダクション、TANGO、大地のコレクション展2022(清津倉庫美術館)
【7月中旬】
栗真由美、椛田ちひろ(追加展開)、酒百宏一(追加展開)、長谷川仁、岩城和哉+東京電機大学、joylabo、ジャネット・ローレンス、ウー・ケンアン(鄔建安)、石松丈佳(追加展開)、藤堂、山本浩二、松尾高弘、アナザーマウンテンマン(又一山人)(追加展開)
【7月下旬】
磯辺行久、中谷芙二子、日比野克彦、川俣正、中﨑透、富田紀子、Doobu+立命館大学産業社会学部永野聡ゼミ、Mapped to the Closest Address、田島征三 (夏企画展)、景山健、里山アートどうぶつ園、丹治嘉彦+橋本学、力五山、小松宏誠、増田啓介、蓮池もも、edition.nord、BankART1929+みかんぐみ+神奈川大学曽我部研究室+50数名のアーティスト、深川資料館通り商店街協同組合、妻有いけばな回廊、枯木又プロジェクト、Ongoing Collective、前山忠×湯山メールアート・プロジェクト、エレナ・ノックス、安野太郎、岡淳+音楽水車プロジェクト
ほか
北川フラム