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芸術 / イベント

大地の運動会

Photo by Nakamura Osamu

芸術 / イベント

大地の運動会

Photo by Nakamura Osamu

歓待する運動会

テキスト:前田礼(アートフロントギャラリー)/撮影:Nakamura Osamu

09 November 2024

9月7日、真夏のような太陽が照り付ける青空の下、「大地の芸術祭」にとって初めての「大地の運動会」は開催された。

朝、会場の奴奈川キャンパスに到着すると、万国旗とともに手作りの万人旗がたなびき、芸術祭ゆかりのアーティストたちによるチームごとの巨大な応援旗が掲げられていた。黄金の入場門、のぼりが立ち並び、「天国と地獄」「クシコス・ポスト」など運動会の定番音楽が流れている。そんな中、地域の集落、全国各地から、参加者たちが続々とバスで乗り付け、胸躍る運動会への期待は一気に高まっていった。

作家・豊福亮率いるOffice Toyofukuが手がけた入場ゲート。その横にはワークショップで作られたのぼり旗がはためく。

赤組=鞍掛純一(うさぎ)、尾花賢一(きつね)、豊福亮(にわとり)

白組=田島征三(コオイムシ)、原游(ねこ)、弓指寛治(いたち)

芸術祭の軌跡をみるような多様な人々の入場行進

24の国と地域の老若男女、500人が紅白6チームに分かれ、サックス奏者・岡淳さんが結成した「越後妻有かぷかぷ楽団」に先導されて入場行進。運動会は始まった。

「越後妻有かぷかぷ楽団」の演奏で入場行進がスタート。「かぷかぷ」は、宮沢賢治の「やまなし」に登場するクラムボンの笑い声。

約500人の入場行進。芸術祭ネットワークに連なる瀬戸内、信濃大町、南飛騨、復興に向けて歩み出した珠洲からも参加。24の国と地域は、日本、中国、台湾、ベトナム、フィリピン、ネパール、タイ、スリランカ、インドネシア、イラン、オーストラリア、コンゴ、マリ、カメルーン、ウガンダ、エリトリア、スーダン、南アフリカ、ドイツ、フランス、デンマーク、ロシア、アメリカ、コロンビア。

FC越後妻有が教える準備体操

オリンピアンで400mハードル日本記録保持者・為末大さんの実行委員長あいさつに続き、FC越後妻有による準備体操、大玉転がしならぬ「おにぎりコロコロ」、小さな子どもやお年寄りが活躍する「色水リレー」、自称“脚自慢”による「徒競走」、ユニークなお題の「借り物競争」、と午前の競技は順調に進んでいった。

色水リレー

徒競走

全員参加の玉入れ

おにぎりコロコロ

借り物競争。「チームで一番背が高い人」というお題で借りてこられた2人の身長を測定中。

そしていよいよお昼の時間。
大地の運動会は「おにぎりをおいしく食べる」ための運動会でもあるのだ。地元のお母さんたちが朝早くから準備した1000個のおにぎり、唐揚げ、卵焼き、お漬物が各テントでふるまわれ、グラウンドでは越後妻有かぷかぷ楽団の農具の楽器による演奏やFC越後妻有と日大藝術学部有志のダンス、瀬戸内国際芸術祭有志の組体操などが披露されていく。4人×50組によるパン食い競争も行われた。

【応援パフォーマンス⑤】最後を締めるのは、鬼太鼓座の圧巻のパフォーマンス。

パン食い競走

午後の部では、玉入れ、大縄跳び、クライマックスのチーム対抗リレー。野村正育さんの巧みなMCにリードされ、運動会の時間はあっという間に過ぎていった。

【応援パフォーマンス①】
越後妻有かぷかぷ楽団による演奏。

【応援パフォーマンス②】
FC越後妻有×日本大学藝術学部によるコラボダンス。

【応援パフォーマンス③】
海賊に扮して「ひょっこりひょうたん島」の曲にあわせて組体操を披露した、瀬戸内国際芸術祭チーム。

【応援パフォーマンス④】
難民・移民フェス実行委員会チームによるダンス。

パフォーマンスを楽しむ参加者

全員参加の玉入れ

大縄跳び

クライマックスのチーム対抗リレー、為末大さんもアンカーをつとめた。

最後は、岡淳作曲「パンチパーマチリチリ」の演奏で参加者全員が踊り、歌う、感動のフィナーレ。国籍・地域・世代・ジャンルを超えた様々な背景をもった人々が一堂に会し、一緒になって遊び、喜びと興奮を分かち合う一日となった。

司会を務めてくださった野村正育さん。名MCぶりで運動会を大いに盛り上げてくださった。


それにしても、なぜ「運動会」なのか――。

「運動会」は実は日本独特のもので、地域が総出で参加して競い合い楽しむ「おまつり」で、外国にはない。だから外国人にはとても新鮮なのだ。団体競技や応援合戦、競技や合間の音楽、華やかな応援旗、観客席全体がピクニック会場になるお弁当の時間――。それは体育、音楽、美術、家庭科、主要5教科以外に一生懸命な「奴奈川キャンパス」にふさわしい、大地の芸術祭の粋をつくしたイベントとなる。

準備がスタートしたのは5月頃。
厳しい人たちから声をかけよう、できるだけ多くの国や地域、多様な人たちに参加してもらおうと呼びかけを始めた。

今、世界には1億2000万人の難民がいて、日本でも毎年14000件の難民申請がある。でも認定されるのはわずか2%。それ以外の人たちは「仮放免者」となり働くことも県を越えて移動することもできない。彼らを支援する難民・移民フェス実行委員会の金井真紀さんたちは、仮放免者ひとりひとりに付き添って入管に出向き、申請し、許可を得て、11か国、総勢22名で参加してくれた。彼らは「楽しい」を連発し、つらいことが多い難民人生でこんなに心身がのびのびしたことはなかったという。

貧困による体験格差解消プロジェクトに取り組む安部敏樹さんのリディラバは、海外にルーツをもつ20人近い子どもたちを連れてきてくれた。フィナーレでは、輪の中心ではじけるように踊る彼らがいた。越後妻有や新潟県内で働く外国人や障害者施設に通う人たちも参加してくれた。運動会は「歓待」の場となり、多様な人がつながるきっかけを生んだ。

参加の呼びかけの一方で、競技や道具、旗やのぼり、グッズの準備が進められた。ただでさえ人手の足りない大地の芸術祭会期中、直前には、運営が終わる夜8時から毎晩のように会議が重ねられた。運動会の担当者の分まで芸術祭の現場を担ったスタッフもいた。そうして迎えた運動会の朝だった。


選手宣誓!妻有から願いを込めて

白組団長の金井さんと赤組団長の安部さんが読み上げた選手宣誓には、芸術祭への、そして世界への私たちの希求がこめられていた。

宣誓!
私たちは、この地球に、
ひとりひとりの異なった80億人が
同時に生きていることの不思議に喜び、
それぞれの個性を活かし、
スポーツ、芸術、遊びに参加し、
おいしいおにぎりを食べ、お互いを理解し、
楽しい運動会にすることを誓います。

最後に

▼参加者からの声をここに記載します

「祖国で危険な目に遭って日本に逃げてきた人、国に残してきた家族を殺害された人、来日後、長期にわたって入管収容されて自殺を図った人、就労不可なのに病気になり寄付で手術を受けて生き長らえた人、さまざまな背景のある仲間が心と体を解きほぐして、『楽しい』を連発して過ごしました。クセものだらけのわがチームを優しく導いてくださったみなさんに深くお礼を申し上げます。日本に来てから初めて旅行した人ばかりでみんな初めての新潟が大好きになりました。帰りのバスが関越自動車道を降りて、都内に入ると『新潟に戻りたい!新潟に住む!このままバスから降りない!!』ってみんな騒いでいました。いま、このメールを書いていても涙が出ます…。そのうちの一人が昨日、入管に出頭する日だったので同行しました。ふだんは収容されるかも、強制送還されるかも、という恐怖から入管に行くときは顔がこわばっているんですけど、新潟の余韻があるから『楽しかったねぇ』ってニコニコで、わたしたちもニコニコで、おかげさまで入管手続きもスムーズに済みました。」

「この前7日と8日の素晴らしいお祭りにそして一生良い思い出に残る2日間に招待して頂いた方に直接お礼と感謝の気持ちを伝えることをできなく、感謝のメッセージを贈ります。2日間素晴らしくとても楽しい思い出を感謝とお礼を申し上げます。本当にどうもありがとうございました。」

奴奈川キャンパス

”子ども五感体験美術館”

廃校にさまざまな体験型の作品を展示することで、新たな地域交流の場を作り上げた。FC越後妻有の拠点施設としても使われている。

・公開期間:2024年は11/10まで公開。常設作品として春~秋公開(公開日は年によって異なる。詳細は作品ページ参照)
・公開時間:10:00-17:00(火水定休)※10・11月は16:00まで
・住所:新潟県十日町市室野576
>>詳細はHPへ

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