特集 / ディレクターズコラム
4月29日から145日間にわたる「越後妻有 大地の芸術祭 2022」が開幕。それにあわせて、今回の新作や見どころや”あれこれ”を、総合ディレクター・北川フラムが綴る新連載「大地の芸術祭あれこれ」がスタート。
文:北川フラム
24 October 2022
大地の芸術祭は稲刈りもおおかた終わり、空高く、すがすがしい季節になり、お客様も里山の透明な空気を楽しもうと来圏されていて、ありがたいことです。今後は24日に福武總一郎プロデューサー、27日に経団連ツアー、北アルプス国際芸術祭大町市ツアー。30日にホセイン・ヴァラマネシュのメモリアルツアー、31日に岐阜県古田肇知事。11月は11日にブルーノ・マトンのメモリアルツアー、13日最終日は最終ツアー及び閉会式、こへび隊・スタッフ・地元お疲れさま会の予定です。ツアーの際、私は作品がある家の前まではご案内しますが、あとはお客さまにご自由に見て貰っていて私は外で一休みしているのであまりちゃんと見ていないのです。ガイドさんはそうはいかず、そこでは対話型の作品理解が行われているとよいなあと思います。残り14日、できるだけ記憶にとどめたい。二度と見られないものもあって、この時期になると特に子ども達にぜひ見て貰いたいと、切に思うのです。
気になる作品を挙げます。先ずはMonETで、ウクライナのジャンナ・カディロワの〈パリャヌィツャ〉。ロシア軍のウクライナ侵攻後、避難先の河原で見つけた石を作品化し、日本に最初に持ち込まれたもの。
ジャンナ・カディロワ「パリャヌィツャ」Photo Nakamura Osamu
ホセイン・ヴァラマネシュ展(10/31まで)。第1回の星と森の美術館横の雑木林と、第7回のオーストラリア・ハウス(現存)に参加したイラン/オーストラリアの作家。
ホセイン・ヴァラマネシュ「ガーディアン」Photo Nakamura Osamu
ホセイン・ヴァラマネシュ「雪の記憶に」Photo by ANZAÏ
ブルーノ・マトン展。第1回目以来、鉢集落の石仏の道に設置されている、国内外の文人、大岡信・谷川俊太郎・津島佑子らの詩との共作オブジェ。奥さんと共に日本と深いかかわりを持ったフランス作家です。
ブルーノ・マトン「6つの徳の物語」Photo by ANZAÏ
ナウィン・ラワンチャイクン(タイ)〈赤倉の学堂〉。昨日感謝の挨拶に来られた米国の美術史家が激賞していた傑作です。
ナウィン・ラワンチャイクン+ナウィンプロダクション「赤倉の学堂」photo Nakamura Osamu
酒百宏一〈みどりの部屋〉。秋になって〈緑のトンネル〉はどうなっているのかな? うぶすなの家の布施知子〈うぶすなの白〉。世界最高の紙作家の作品がもう見られないのは残念だ。
酒百宏一「みどりの部屋プロジェクト2021-2022」Photo Nakamura Osamu
布施知子「うぶすなの白」photo Kioku Keizo
古郡弘〈みしゃぐち〉。体験すればするほど作家の凄さと土に生きた祖先の生活の基底がわかります。
古郡弘「胞衣―みしゃぐち」Photo Ebie Shigemitsu
旧上新田公民館の河口龍夫〈農具の時間〉は植物の種が封印された農具という田と人との永く深い関わりのあらわれです。黄色の部屋で、その農具を手にする姿は実際の姿勢になるので、写真では楽しく人気があります。一階にあるカン・アイラン〈元の光・知の光Ⅱ〉でも日本一の棟梁といわれた田中文男の蔵書に籠められた民家に関わる大工の知恵が浮かびあがってくるもので、この滞在はぜひゆっくり楽しんで下さい。
河口龍夫「農具の時間」photo Kioku Keizo
カン・アイラン「天の光、知の光-Ⅱ」photo Miyamoto Takenori+Seno Hiromi
旧みよしの湯の井橋亜璃紗〈意識と自然の探索〉とMapped to the Closest Addressの〈誤山を眺める〉はタイトルに示される通りアーチストがこの地に来て掴んだ地域と住民の関わりが分かる作品です。
井橋亜璃紗「意識と自然の探索」photo Nakamura Omsau
Mapped to the Closest Address「誤山を眺める」photo Nakamura Osamu
この東下組は第1回から地域をあげて芸術祭に取り組んできたところで、その結晶がみかんぐみ+神奈川大学曽我部研究室の〈下条茅葺きの塔〉です。この地域にはかって茅職人が多く暮らしていて、その記憶でもありますが、ぜひ立ち寄ってください。この地域に入ると多くの家が芸術祭を表す赤い三角旗をだしてくれていて嬉しくなるのです。
みかんぐみ+神奈川大学曽我部研究室「下条茅葺きの塔」photo Nakamura Osamu
下条地区の芸術祭を表す旗
(枯木又プロジェクトは終わっています。鐵羅佑の〈地敬〉パフォーマンスとウスビ・サコ前精華大学学長のトークに参加できず残念でしたが、地元との永いかかわりは貴重なものでした)
この枯木又に行く途中に磯辺行久の〈昔はみんなたのしかった 文化人類学手法によるフィールド・ワークから〉という15年前に閉村になった小貫(こつなぎ)集落を歩き、その歴史、コミュニティを知るプロジェクトはぜひおすすめです。かつて住んでいた方が案内して下さっているし、貴重な経験になると思います。
磯辺行久「昔はみんなたのしかった 文化人類学手法によるフィールド・ワークから」photo Nakamura Osamu
景山健の力作〈ここにおいて「縄文の時とともに」〉は近くの高麗神社の杉の木を基幹にして、これも土地の記憶がよくわかります。
その他椛田ちひろの〈ゆく水の家〉(水沢市ノ沢)、アントニー・ゴームリー〈もうひとつの特異点〉(二ツ屋)、栗真由美〈ビルズクラウド〉(吉田)、「絵本と木の実の美術館」もみな充実しているのでお忘れなく。私も行きます。
北川フラム
景山健「ここにおいて『縄文の時とともに』」photo Nakamura Osamu
椛田ちひろ「ゆく水の家」photo Kioku Keizo
アントニー・ゴームリー「もうひとつの特異点」photo Miyamoto Takenori+Seno Hiromi
栗真由美「ビルズクラウド」photo Nakamura Osamu