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中国に輸出された”大地の芸術祭”。その第2回となる「広東南海大地の芸術祭2024」がついに開幕――。
11 December 2024
「大地の芸術祭」が海を越え、中国で開催されていることをご存知だろうか。「大地の芸術祭」という固有名詞がほんの少しではあるが普遍的になってきたというのだ。
その正式名称は「芸術在樵山ー広東南海大地の芸術祭」。中国の広東省佛山市南海区が会場となり、2022年に第1回を迎え、2024年11月16日に第2回が開幕した。越後妻有を代表する作家陣、淺井裕介、レアンドロ・エルリッヒ、鞍掛純一、田島征三、原倫太郎+原游、藤本壮介、松本秋則、松本倫子らが参加し、北川フラムも顧問を務めるなど、大地の芸術祭との縁は非常に深い。それもそのはず、仕掛け人・孫倩は越後妻有の空き家を日中交流拠点「華園(中国ハウス)」に変え、MADアーキテクツをはじめ多数の中国作家との架け橋となってきたHUBART(瀚和文化)チームなのだ。
ケイトリン・RC・ブラウン&ウェイン・ギャレット「Tears of the Moon」Photo: Tian Fangfang
マ・ヤンソン/ MADアーキテクツ「The Never Hut」Photo: Tian Fangfang
原倫太郎+原游「南海双六」Photo : Tian Fangfang
松本倫子「hoppeとの旅」Photo : Tian Fangfang
「広東南海大地の芸術祭2024」ロゴ
ポスター計5種
デザイン:劉慶元+胡子
5月に上海で開催された大地の芸術祭中国記者発表会も、HUBART主催によるもの。中国メディアを中心に約200人が集まり、大地の芸術祭2024の概要や中国作家の紹介が行われ、さらに「広東南海大地の芸術祭2024」の開催も発表された。越後妻有からも関口芳史十日町市長や芸術祭スタッフが参加し、HUBARTの熱意や発信力を間近で見る機会となった。この発表会により多数の中国メディアやSNSが大地の芸術祭を取り上げてくれた。越後妻有に中国から多くの来場があったのもHUBARTによるPRが大きく影響している。
関口芳史十日町市長(大地の芸術祭実行委員長)
また、10月17日にはHUBARTと広東南海芸術祭の主催者・佛山市南海区人民政府の方々が越後妻有を訪れ、「華園(中国ハウス)」にてセレモニーが行われた。佛山市南海区人民政府の方華剛さんは、南海に作品を展開している松本秋則、マ・ヤンソン、淺井裕介、田島征三、原倫太郎+原游などの作品が越後妻有でも観ることができ、親しみを覚えたという。そして越後妻有と互いに連携して良い関係を作りたいと語ってくれた。
大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024 上海記者発表会
日時:2024年5月15日9:30-12:30
会場:上海市上海市黄浦区茂名南路58号花园饭店
左4番目から 原蜜(NPO法人越後妻有里山協働事務局長)、方華剛(佛山市南海区人民政府副区長)、孫倩(HUBART理事長)。会場となったマ・ヤンソン / MADアーキテクツの作品「野辺の泡」[華園(中国ハウス)内]にて。
大地の芸術祭主催団体のひとつ、NPO法人越後妻有里山協働機構の原事務局長は、「2015年、孫さんがどこからともなく彗星のごとく越後妻有に現れたんです(笑)。そこから何人もの中国関係者や作家を連れてきてくれました。清津峡渓谷トンネル内の作品《Tunnel of Light》を手掛けたマ・ヤンソンさんもそのひとりです。彼らの作品はいまや越後妻有の代表作に仲間入りするなど、HUBARTとの出会いは大きなことでした。中国からお客様はもちろん、サポーターも増えました。遠いようで近い、近いようで遠い中国と越後妻有の距離を近づけてくれたと感じています」と語った。
マ・ヤンソン / MADアーキテクツ「野辺の泡」(外観)Photo :Zhu Yumeng
「野辺の泡」および「華園(中国ハウス)」の受付に入っていたのが、偶然にも中国と台湾出身の2人のこへび隊。HUBARTのメンバーと楽しそうに言葉を交わしていた。
孫さんは、中国で見た小さな作品写真から大地の芸術祭に興味をもち、2015年にこの地を訪れた。そこから地域との交流や交流施設の設置を経て、中国での「大地の芸術祭」開催という夢をもったと、当サイトの取材で話してくれた。その夢が実現した今、当時のコラムを読むと孫さんの強い想いと行動力を感じると同時に、開催までにどれだけの苦労があったのだろうかと想いを巡らせてしまう。
▼美術は大地から(前編)/
国境をこえて文化の架け橋となる「大地の芸術祭」
▼美術は大地から(後編)/
中国での「大地の芸術祭」開催という夢へ
「広東南海大地の芸術祭」の舞台となる中国の佛山市南海区は、広州に隣接する広東省・香港・マカオの大湾区の後背地となる広州-佛山都市圏に位置し、総面積1071.82㎢、居住人口370万人強で、6つの鎮(日本でいう町)と1つの街道を管轄している。南海は歴史が古く、秦の時代には都が、隋の時代には県が置かれ、多くの著名人を輩出したという。
南海区は広東省の「四小虎」(*1)のひとつとして知られ、高い経済力を有する。日本企業も多数工場進出しており、ここ何年か中国中都市小都市総合実力トップ100の第2位にランクインしている。区全域には全産業種をカバーする強力な工業基盤があり、生産額が200億元以上(約4268億円以上)の産業クラスターが16ある。その中でも金属製品産業は生産額が1500億元以上(約3兆2000億円以上)で第1位となっている。(*2)
ウー・ケンアン「Day LineーThe Diligent Sun」Photo:島影スタジオ
「Game of Typeface-Signboard Project」Photo : Tian Fangfang
*1)中国の「四小虎」・・・南海、順德、東莞、中山の4つの経済発展が著しい地域を指す。
*2)2024年11月17日時点のレート、1元=21.34 円にて算出。
「広東南海大地の芸術祭」は、佛山市南海区人民政府が主催し、地域性、包括性、持続可能な発展の基準を堅持した“China Project of Art Field”(大地の芸術祭中国プロジェクト)の全面的な発表の場である。農村の活性化支援を目的とするこのフェスティバルは、広東省の「百、千、万プロジェクト」と都市農村一体化発展の改革・革新の要求に合致し、文化観光と人文経済発展の融合を促進する。
長期的な地域文化プロジェクトと位置づけられ、2年に1度の頻度で順次拡大し、持続的に発展させる計画だ。南海を「グレーターベイエリアの文化的高地」とし、世界的な文化・芸術・観光の目的地にすることを目指している。第1回は2022年11月18日から2023年2月19日まで開催され、今回は2024年11月16日から2025年2月12日まで開催される。
Janie Luo「Kick back with a drink」Photo:張静
松本秋則「蚕の協奏曲」Photo : Tian Fangfang
2回目となる「広東南海大地の芸術祭2024」は、合計95の展示プロジェクトを発表した。初回に好評を博した名作を網羅するだけでなく、新作も多数展開している。参加アーティストは、中国、香港、マカオ、台湾、アルゼンチン、アイルランド、オーストリア、オーストラリア、ペルー、ロシア―、ドイツ、フランス、キューバ、韓国、カナダ、カタール、ルクセンブルク、マレーシア、アメリカ、メキシコ、ポルトガル、日本、スウェーデン、スペイン、ギリシャ、シンガポール、イタリア、イラン、イスラエル、イギリスなど、地理的・文化的境界を越えて、165組194名が30カ国及び地区から集まり、色彩豊かな芸術のタペストリーを織りなす。
特に、芸術祭のホームとして、広東・香港・マカオ・ベイエリアのアーティスト・コミュニティが絶大な活力を示し、36組(総勢50名)のアーティストが参加。全参加アーティストの4分の1を占めた。これは、この地域の奥深い文化遺産と現代アートの力を浮き彫りにし、地域の文化交流と協力を促すという芸術祭の重要な成果も示している。
Michelangelo Pistoletto(イタリア)「Third Paradise at Qiaoshan」Photo : Tian Fangfang
左)宋冬+尹秀珍作品「The Way of Chopsticks」Photo:Tian Fangfang/右)TANGO「Tea Time」Photo:張静
作家黄河山『Surfacing』 Photo:岛影工作室
2022年の第1回には100万人以上が訪れたという「広東南海大地の芸術祭」。今回のテーマは”水の南海”。さまざまな作家が水を使った作品を展開し、楽しい芸術祭になっている。越後妻有でも1~3月に冬プログラムを開催する。水の南海と雪の妻有。ふたつの「大地の芸術祭」、それぞれの魅力を体感してほしい。
NPO法人越後妻有里山協働 山口朋子
BasuramaCollective(スペイン)「Filum」Photo : Tian Fangfang
SMA+WUA「Floating Boat」Photo:Tian Fangfang
Toy Resurrection Clinic 「Street of Pond Stars」Photo:張静