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「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2018」記録集、販売中。

25 May 2020

発売中の、第7回展の記録集。ページをめくっては「あれからもう1年以上経つのか」と暑かった夏を思い出し、恵みの雨が降った朝の土の匂いや、汗だくになって作品に辿り着いたときの感覚が蘇ります。同時に、2021年の公募情報をご案内している今、あの怒涛の日々が再び始まるのか…と複雑な気持ちもありますが、自信をもってご紹介できる一冊となりました。

越後妻有でプロジェクトがスタートして20年

「美術」という言葉を中学の授業以来口にしていなかったという人々のなかに、さらに馴染みのない「現代アート」という言葉が入ってきたのが1996年。その後、なんとか2000年に第1回展を迎えますが、「当時は反対もなにも、得体の知れないものへどう反応すべきか全く分からなかった」という地域の方々。それが今では嬉しそうにお客様をもてなし、作品を解説してくださいます。本書では、この20年で芸術祭自体や取り巻く環境がどう変わり、2018年はどんな芸術祭だったのか、その軌跡を辿ります。

冒頭にある総合ディレクター・北川フラムのメッセージでは、第7回展の振り返りとともに芸術祭のこれまでの歩みが細かく記され、ここを読んでいただくだけでも、芸術祭を紐解くことができるのではないでしょうか。また、キナーレでの企画展「2018年の〈方丈記私記〉」や池で展開したレアンドロ・エルリッヒの「Palimpsest:空の池」について、企画展の審査員であり、キナーレの設計をされた建築家・原広司氏の文章もぜひ読んでいただきたいです。

キナーレで取材を受けるレアンドロと原先生(撮影:NAKAMURA Osamu)

各所に散りばめられたコラムでは、芸術祭から生まれたプロジェクトや関わる人を紹介しています。例えば、少子化で閉校の危機にある松之山小学校では、数年前から芸術祭との連携プログラムを実施しており、2018年は「松之山オープンキャンパス」を開講。その想いを綴ったコラムや、海外サポーターが増えた第7回展で長期滞在してくれた台湾こへびのコラムなどを掲載しています。

松之山オープンキャンパス(撮影:NAKAMURA Osamu)

活動中の海外こへび(撮影:YANAGI Ayumi)

後半では、厳しい言葉も含めて芸術祭への本音を語ってもらおうと、長年芸術祭を支えてくれた方々からのメッセージを掲載。2000年当時を知らない私には驚きも多く、また芸術祭のコンセプトが深く地域への浸透していることや今後の展望への覚悟も感じとることができる内容でした。IT業界の最前線におられるオフィシャルサポーター・リーダーの高島宏平さんからは、ビジネスモデルの確立やトリエンナーレ後の重要性、一極型ではない多様な人々が関わるフェーズにきているというご指摘。通年事業にも関わっていただいている高島さんのご指摘は、長年改善できていない大きな課題でもあります。

オフィシャルサポーターが中心となった”100人ツアー”

本格化する2021年への準備

2021年夏に開催される次回展、その準備が今夏から本格的に始まります。休日であろうが他の業務をしていようが、頭の片隅に2021への不安と焦りが常にあり落ち着かない毎日です。それでも記録集を開くと、それまでの苦労よりも芸術祭というお祭りの楽しさを思い出し、次は何が始まるのかと期待も膨らんでしまう、そんな一冊となりました。

最後になりましたが、今回の編集を担当いただいた現代企画室の皆さまは、実は、2000年の第1回からこへび隊やスタッフとして参加してきたベテラン勢。20年を振り返るには欠かせない方々であり、彼らの編集があったからこそ充実した一冊となりました。
本当にありがとうございました。

Information

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2018記録集

言語:日英、一部日本語のみ
判型:B5版
頁数:247ページ
発行所:現代企画室

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