運営 / 越後妻有の舞台裏から
01 May 2020
鉢集落の旧真田小学校 Photo by AKIMOTO Shigeru
2005年に廃校となった旧真田小学校。校舎の活用手段に集落は頭を悩ませていた頃、田島征三は越後妻有で個人美術館を作る提案を受け、廃校や空家を見て廻っていました。初めて鉢集落に訪れた時、かつて暮らしていた旧日の出村(東京都西多摩郡)の情景と重なったといいます。
廃校の校舎に残されたメッセージ 画:田島征三(新潟日報連載より)
校舎の中を巡ると、黒板に「きよえさん、おいしかったよ。」という当時の在校生によるメッセージが。「きよえさん」とは鉢集落の女性で、給食の調理員をしていました。そして、田島征三の料理が自慢の妻もまた、喜代恵さんという同名だったのです。そんな偶然が決め手となって、旧真田小学校で作品を制作する決意をしたのでした。
2008年夏に開催されたプレエキシビジョン「かぼちゃの空に民話の星々」Photo by SAKAI Atsushi
田島征三は鉢集落の住民に学校でのエピソードを聞いて廻り、学校の存在が集落の心の支えであったことを知りました。最後の在校生である3人の子どもたちは、真田小学校が好きだったのに隣の小学校に転校しなければなりませんでした。
最後の在校生のユウキ・ユカ・ケンタ Photo by AKIMOTO Shigeru
「体は転校しても、心は真田小学校に残っている。この小学校で生まれた思い出が蘇るような展示にしたい。ずっと小学校のままにしよう!」と決めました。そして物語「学校はカラッポにならない」が生まれました。
絵本『学校はカラッポにならない』(2009/現代企画室)
今ではお馴染みのオバケ「トペラトト」は、子どもたちのおしゃべりや笑い声が大好物。何十年も真田小学校に棲んでいましたが、子どもたちの姿が消えて、すっかりさみしくなっていました。カラッポの校舎に最後の在校生ユウキ・ユカ・ケンタが戻ってくると、物語が一気に動き出します。
思い出を食べるオバケ「トペラトト」 Photo by ISHIZUKA Gentaro
やがて小学校は美術館として息を吹き返し、子どもの姿が蘇り、鉢集落やたくさんの縁でつながった方々、ヤギや小さな生きものたちの声がいつも聞こえる場所になりました。校舎が生き生きと躍動する「空間絵本」という世界初のアートが誕生しました。
屋外では田島征三の絵本に登場するヤギと同じ「しずか」という名の、ヤギの家族が暮らしている。
おおたか静流と鉢ばあちゃん(2013/企画展「おおたか静流大博覧会」)
この10年間、校舎という空間に多ジャンルのアーティストが挑み他にはない数々の展覧会を行ってきました。中でも、シンガー&ボイスアーティストのおおたか静流さんは、CD『トペラトトのおどり』、田島征三と共に絵本『トペラトト』の出版まで成し遂げてくれました。また、「おおたか静流大博覧会」と称して、奇想天外な参加型展覧会を企画。鉢集落のばあちゃんがBarのママ役をする「Barぶきみや」は話題となり、ひと夏の来館者が倍増。いつも絵本と木の実の美術館に寄り添い、その世界を豊かにしてくれています。
「BACCA*GOHGIな鉢祭り」おおたか静流+Asian Wings(2018)
多ジャンルのアーティストが木造校舎で作品を展開 絵本作家・あべ弘士(2014/企画展「どうぶつまみれでおおさわぎ?!」)
作家・中里繪魯洲(2016/企画展「みえない いと」)
詩人・アーサー・ビナード(2017~2018/企画展「カラダのなか、キモチのおく。」)
鉢集落は2000年の第1回「大地の芸術祭」で一番に作家の受け入れに手を挙げた集落です。田島征三との出会いから、幾度となく無理難題を提示されても可能な限り賛同し、惜しみない協力はずっと続いています。
美術館に訪れる人々は、鉢の皆さんのあたたかい歓迎が心に残り、何度も通ってくれるようになります。10年という年月は短いようで長く、集落の人口も徐々に減っていて行事ごとも縮小傾向にあります。時代と共にかわる集落の存在に寄り添って、これからは少しでも鉢の皆さんと一緒に集落を明るくするような活動をしていくことが、絵本と木の実の美術館の次の10年への第一歩です。
絵本と木の実の美術館スタッフ 天野季子 (NPO法人 越後妻有里山協働機構)
鉢集落のみなさん(4月/ 毎年恒例の大掃除)
施設紹介
住所:〒942-1402 新潟県十日町市真田甲2310-1 TEL&FAX:025-752-0066
公式HP:http://ehontokinomi-museum.jp/
*現在、絵本と木の実の美術館は休館しております。
*美術館へ足をお運びいただくのはご遠慮ください。ご理解の程、お願い申し上げます。
Photo by ISHIZUKA Gentaro
Profile
1940年 大阪府生まれ。幼少期を高知県で過ごす。1969年 『ちからたろう』にて第2回BIB世界絵本原画展金のりんご賞。その他受賞多数。2009年 第4回「大地の芸術祭」で鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館開館。2013年~ 香川県大島で、ハンセン病の元患者の療養所にて「空間詩・青空水族館」作品出品。2019年、国際アンデルセン賞候補。
Photo by AKIMOTO Shigeru
創立10周年記念記録集
絵本と木の実の美術館立ち上げから2019年までの活動を一冊に綴った記録集。2018年に地元紙に連載した全15話の「キセキの美術館」も収められている。
本記録集、その他書籍・オリジナルグッズは越後妻有オンラインショップで購入できます。