新潟から世界を捉え、21世紀の美術を考える
大地の芸術祭公式WEBマガジン

運営 / 越後妻有の舞台裏から

アートを「買う」、ということ。

23 November 2020

購入できるアート作品はありますか?

「購入できるアート作品はありますか?」そう聞かれることが増えたと感じる近年。質問してくる方の多くは、コレクターでも企業経営者でもなく、3~40代の会社員の方々です。アート系ECサイトも増え、自分が愛でる用の作品購入という選択肢が少しずつですが浸透しているのではないでしょうか。

アートは「買おう」と思って観ることで、見え方がまったく異なってきます。この作品を飽くことなく愛せるか?と自分に問い、購入する可能性を意識しながら作品に接することで「アートを観る目」が養われる、とも言われています。

大地の芸術祭では、大型インスタレーション作品のイメージが強いかもしれませんが、自宅に飾れるサイズや多様な価格帯の作品も数多く展示販売しております。そのなかでも人気なのが、越後妻有を代表する作家・田島征三(絵本作家)の作品です。

田島征三「かせぐ」(伊藤忠商事の日経新聞広告掲載/2017年第66回日経広告賞大賞受賞)Photo by NAKAMURA Osamu

絵本作家、田島征三の魅力

田島征三は、1940年、大阪府堺市で、同じく絵本作家である双子の兄・征彦(ゆきひこ)とともに生まれました。6~19歳までを高知県で暮らし、この時期に、小川で魚を手づかみで捕まえたときの、生き物が掌の中で暴れる感触は今も創作の根になっているといいます。そんな田島征三がこの秋、新作絵本『つかまえた』(偕成社)を発表しました。まさに少年時代の原体験をテーマにした本作は、NHK『日曜美術館』の田島征三特集でも紹介されています。

新作絵本『つかまえた』

『ちからたろう』『しばてん』『ふきまんぶく』『とべバッタ』など、大胆な筆づかいで、ほとばしる生命の躍動を描いてきた絵本作家・田島征三が、忘れられない少年の日の原体験をテーマに取り組んだ入魂の一冊。夏のある日、川の浅瀬に大きな魚がいるのをみつけたぼくは、そっと近づこうとしたが、足をすべらせて川に落ちてしまう。水の中で懸命にのばした指が魚にふれると、ぼくは無我夢中でそれをつかまえた──。偕成社公式サイトより引用)

田島征三 絵本『つかまえた』習作 Photo by NAKAMURA Osamu

1969年に東京都西多摩郡日の出村(現日の出町)に移り住み、ヤギやチャボを飼い畑を耕しながら創作を続けた田島征三。1989年、日の出町が巨大ゴミ処分場計画候補地になっていることを知り、夫婦で反対運動をおこします。森の中で反対運動をしているときに森の植物や小動物との連帯を強く感じ、インスピレーションを得ます。その後胃がんを患い、摘出手術後に転地療法のため、伊豆高原(静岡県伊東市)に移住。(1997年)手術後、体力をつけようと森の中を歩いていた時、シロダモ大木に呼び止められた気がしてふと立ち止まったといいます。翌年の秋、その実を集めて制作した絵本『ガオ』を出版し、その後、絵本を作りながら、木の実や流木などによる作品を発表し続けています。

そして2009年、第4回の大地の芸術祭作品として、鉢集落の廃校をまるごと作品化し、流木や木の実を使って“空間絵本”をつくりだした「絵本と木の実の美術館」が誕生しました。以来、田島さんは伊豆と鉢集落を行き来し、美術館は魅力を増し続け、集落からも県外からのファンにも非常に愛される、越後妻有の代表作品のひとつになりました。

田島征三「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」(2009年)Photo by MIYAMOTO Takenori + SENO Hiromi

今回、展覧会で田島さんの作品を購入してくださったお客様はこう話してくれます。

アート作品は、作者の「ここはひとつ物申したい」ことそのものに感じます。それらの本気に出会った時、見る者の心は揺り動かされます。ウームと考え込んだり、自分の内に沸き起こる新たな感情にホウと驚いたり、自分のキモチを解放して遊び、見つめ直す楽しい時間。

しかしこれまでその作品を「買おう」と思ったことはなく、また「買えるもの」だとも思っていませんでした。今回のように「購入する機会」を紹介していただけたのは良かったです。

新作絵本の『つかまえた』は田島征三さんご自身の幼い時の記憶。重要なのはこの手で体験するということ。命とは危うく、またたくましいことを。それを踏んでのそこから始まる人生。ちいさい人とその人を育む大人たちに伝えたい。

その伝言を受取るために購入しました。

(50代/会社員)

田島征三 絵本『つかまえた』習作 Photo by NAKAMURA Osamu

「ふしぎのケハイ」絵本作家・ミロコマチコ×田島征三 ライブペインティングにて制作(2017年5月)

現在、越後妻有里山現代美術館[キナーレ]では、「田島征三コレクションギャラリー ~空間絵本ものがたり~」展を開催しており、田島征三の70年代の貴重なものから最新の描き下ろし作品まで一挙展示・販売しています。ご好評につき、このたび12月6日までの公開延長も決定しました。今回の企画展では、数万円の作品も多数販売しており、ご自宅や大切な方へのプレゼントなどにもご購入いただいております。ぜひこの機会に、アートを「買う」という目線で観てみてください。

 

大地の芸術祭・広報
山口朋子

企画展「田島征三コレクションギャラリー ~空間絵本ものがたり~」Photo by NAKAMURA Osamu

田島征三 Photo by AKIMOTO Shigeru

Information

展示販売企画展「田島征三コレクションギャラリー ~空間絵本ものがたり~」

【会期】12月6日(日)まで 10:00〜17:00(最終入館16:30) 水曜休館
【会場】越後妻有里山現代美術館[キナーレ](十日町市本町6)
【料金】一般800円、小中学生400円
※常設展入館料を含む
※「キナーレ」と「絵本と木の美の美術館」の両館にご来場いただく場合は、入館料一般200円、小中100円割引がございます(それぞれ個別鑑賞券を受付にてご提示ください)。
≫詳細はこちら


田島征三/PROFILE
1940年 大阪府生まれ。幼少期を高知県で過ごす。2009年の大地の芸術祭作品として、「鉢&田島征三 絵本と木の美術館」を開館。1969年『ちからたろう』でブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)金のりんご賞受賞を皮切りに、講談社出版文化賞、小学館絵画賞、絵本にっぽん省賞、巌谷小波賞など受賞多数。2020年国際アンデルセン賞最終候補に選出。

つながる

最新ニュースやイベント情報、越後妻有の四季の様子、公式メディア「美術は大地から」の更新情報などを大地の芸術祭公式SNSアカウントで発信しています。