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物語 / 私と「大地の芸術祭」第4回(後編)

ロジックではなく、心や体で理解することの大切さに気づいた

アソビュー株式会社 代表取締役CEO / 「大地の芸術祭」オフィシャルサポーター 山野智久

アソビュー株式会社 代表取締役CEO / 「大地の芸術祭」オフィシャルサポーター

山野智久さん

週末の便利でお得な遊びの予約サイト「アソビュー!」の生みの親にして、「大地の芸術祭」オフィシャルサポーターでもある、アソビュー社の山野智久CEOにお話を伺う今回。後編は、自然とアートが融合するこの芸術祭に、デジタル領域から貢献したいという山野さんの想いに迫ります。

テキスト:内田伸一 撮影:豊島望 編集:内田伸一、宮原朋之、川浦慧(CINRA.NET編集部)

30 March 2020

デジタル領域の知見で、芸術祭の輪を広げる

前編では、山野さんが初めて訪れた「大地の芸術祭」で衝撃を受け、芸術祭をそれぞれの得意分野から応援する「オフィシャルサポーター」になるまでの経緯を伺いました。そのメンバーは、ジャーナリスト、モデル、IT企業経営者など様々ですが、芸術祭を盛り上げる応援方法も人それぞれです。

「芸術祭を盛り上げよう!」というテーマは共有しつつ、全員必ずこれをやるという決まりはないんです。あくまで自発的に、やりたいことで動く。そこがリーダーの高島宏平さん(オイシックス・ラ・大地株式会社代表 / NPO法人 越後妻有里山協働機構 副理事長)の巧みさだとも思います。たとえばモデルの田中里奈さんは、彼女ならではのSNSの発信力を活かしつつ、若い世代に芸術祭の魅力を届けることに貢献しています。また先輩経営者のメンバーの方々は、経営者仲間を芸術祭にお誘いすることでファンの輪を広げていて、そこから芸術祭の運営資金支援などにつながることもあるようです。

オフィシャルサポーター仲間との越後妻有・田植え体験。前列左から為末大さん(元アスリート/株式会社侍 代表取締役)、吉田浩一郎氏(株式会社クラウドワークス 代表取締役社長CEO)、山野さん。

若手企業経営者のメンバーの皆さんも、それぞれのアプローチで芸術祭と越後妻有を支えてくれています。

オンライン上で在宅ワーカーと仕事発注者を結びつけるクラウドワークス社の吉田浩一郎代表は、NPO法人越後妻有里山協働機構が運営する「まつだい棚田バンク」で棚田のオーナーになり、収穫したお米はお中元などで取引先に贈っているそうです。リアルな地域貢献ですよね。また、クラウドファンディングサービスを運営する株式会社マクアケの坊垣佳奈さんや、社会問題を取り上げたスタディツアーを展開する株式会社Ridilover / 一般社団法人リディラバの安部敏樹さんは、自分たちのサービスを活かして芸術祭に人を呼び込んだり、地域での学びにつなげたりしています。

ウェブサイト「越後妻有 大地の芸術祭の里」では各種のツアーも紹介、オンライン予約もできる。

そして、山野さんが目指すのは、アソビュー社の知識と経験を生かした、ネット上での「大地の芸術祭」と来場者との接点づくりでした。

「アソビュー!」は様々なレジャー施設やアクティビティのチケット販売プラットフォームという性質を持つので、これを活かそうと考えたのです。具体的には、「大地の芸術祭」に関するツアーやイベントをコンテンツとして扱い、デジタルマーケティングも活用してその販売数を増やすことに取り組みました。

もともと「アソビュー!」誕生の背景には、インターネットがモノの売買だけでなく、広い意味での「体験」を求める人々にも活かせるはずだ、という山野さんの想いがありました。そして、「大地の芸術祭」はまさに、訪れる人々の体験を大切にする取り組みです。そこで山野さんはアソビュー社内に「大地の芸術祭」支援チームを新設。インターネット上でのキャンペーンを企画し、オンラインのチケット販売も充実させ、目標として掲げた来場者数を達成したのです。

国内の芸術祭全般において、デジタル技術へのリテラシーはまだあまり高くない。一方で、我々はデジタルやインターネットを活用して、地域の体験型コンテンツを多くの方々に販売してきた自負もあります。この組み合わせに活路があるのはすぐ気づいたので、何をやればよいのかは明確でした。基本的に「いいもの」は絶対売れると思っていますが、最適な情報の出し方やタイミングを知り、適切な場所に情報を届ければ、いいものがさらに広がる。デジタルを活用した情報の届け方を通じてそのお手伝いができたのは、嬉しいですね。

ロジカルシンキングから、体や心で感じて理解するようになった

「大地の芸術祭」としては本当にありがたい山野さんたちのサポート。ただ、今では7000を超えるパートナー企業と契約し、2万件以上のプランを扱う広がりを見せる「アソビュー!」の多忙なスタッフを擁してまで、「大地の芸術祭」支援に踏み切ることに、経営上のリスクはなかったのでしょうか?

確かにそうした意見もありました。ただ僕は、芸術祭とアソビュー相互のエネルギーが出会うことで、互いを加速させることができると思ったのです。この芸術祭には強い「想いの芯」があり、誰からも応援される温かいストーリーがあり、世の中にあったほうが絶対によいという実感もある。「これを自分たちが持つ力でさらに上向きにできるなら、そうしない選択の方が今後のアソビューにとってリスクだろう」と考えました。もちろん自社スタッフの協力も含めて会社の資源を用いるので、赤字になってはまずいですが、利益よりもそうした将来性に主眼を置いて続けています。

このWEBマガジン『美術は大地から』では、アソビュー社が観光カテゴリーを担当。越後妻有の旅の道案内役として、充実した情報を届けてくれる。

振り返ると、以前の僕はロジカルシンキングの権化のようでもありました。何ごとも自分の考えで論破して、決着させようとしていた。そこに「心」とかは関係無いよ! みたいな(苦笑)。ただ、ここ3〜4年で「世の中ってそういうものじゃないな」と思うようになりました。本当は、体や心が先に理解していることの方が多くて、それを補足するコミニュケーションツールとして、ロジックが求められるのではと思うことすらあります。そうした変化も、自分が今「大地の芸術祭」とご一緒していることと無関係ではないように思います。

芸術祭の未来を、アソビューCEOとしての山野さんはどう見据えているのでしょう?

20世紀を象徴するような、とかく新規性ばかりを重視しがちなアトラクションに対して、「大地の芸術祭」のように、長い歴史やそれが根付く土、空気に直に触れながら得る新鮮な体験は、今後さらに求められると考えています。特に、増え続ける都市部の人々にとってはそうでしょう。アソビューとしては、そうした多面的な芸術祭に、自分たちらしいやり方でデジタル領域の長所を加える貢献ができたらと思います。これについてはアーティストの作品制作の領域から、地元の人々が働きやすい仕事環境づくりまで、幅広い可能性があると考えています。

そうした融合の理想像について、山野さんは映画『天空の城ラピュタ』を例に挙げて話してくれました。

『天空の城ラピュタ』って、究極的には自然とテクノロジーの融合可能性を描いた作品ですよね。今の「大地の芸術祭」は、これまで皆さんが積み重ねてきた努力によって、地域社会と芸術が融合している。一方そこでは、デジタルやテクノロジーはまだ異質なものとしてある印象です。これが融合していくと、ラピュタにおける理想像に近い世界観が生まれるのでは? というイメージもあります。それはまだどこの芸術祭でも実現していないと思うので、焦らず、皆さんと一緒によい形を求めていけたらと思います。

最後に「実は、いつか芸術祭のプロデューサーを経験できたらという想いも、今は持っているんです。叶うとしたら何年後かな」と笑顔で語ってくれた山野さん。山野さんが作り出す芸術祭もぜひ体験してみたいなと思える、そんな取材となりました。

Q1. 思い入れのある作品は?

磯辺行久「川はどこへ言った」(2000年 / 2018年)

かつて人間による開発前に信濃川が流れていた川筋を、約600本の黄色いポールで再現したスケールの大きな作品です。人間の都合で川の流れや生態系が変わっていった場所だと見れば、それに対するアンチテーゼにも思えます。でも一方で、現実にはそこに大勢の人々を支える田畑があり、稲が豊かに根づき、空は青く美しい。そこでそよ風に吹かれながら、自分は何を思うのか? というのも壮大な問いで、禅問答のような気分になります。

撮影:Osamu Nakamura

Q2. 「大地の芸術祭」をひとことで表すとしたら?

ロジックではなく、ハート。

「芸術の意義」みたいな話は、正直、僕にとっては空虚に聞こえることもあります。でも「大地の芸術祭」はそうではなく、愛情や気持ちが大切だというところに立ち戻らせてくれる場所。だから答えはストレートに「愛」でもよいのですが、ちょっと恥ずかしいのでこうしてみました。

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