運営 / 越後妻有の舞台裏から
27 December 2020
2000年第一回の「大地の芸術祭」。
当時小学生の私は、このまつだいという土地で今まで見たことのないアートに衝撃を受けたのを覚えています。その頃から今まで自分と無縁だった「表現する」ということに興味を持ち始めます。そして何かの縁でしょう、ちょうど20年経った2020年6月。私はこのまつだいの大地で「百姓」をすることになります。なぜこの土地で農業をするのか? 少しだけ私のお話にお付き合いいただければと思います。
私は新潟県柏崎市の出身。母方の祖父母は佐渡島で農業を営んでおり、幼少の頃から農業や新潟の広大な自然、旨い米と関わりながら生きてきました。社会人になった私は専業農家にはなりませんでしたが、農業という職業を選び、いつの日からかこの「農業」は私のライフスタイルの一部となります。
しかしながら私の中で「サラリーマン農業」をする意味に疑問を抱くようになりました。農業の醍醐味といえば、まずは「旨い物を作る」。次に「旨い物をたくさん採る」。私はこの2点だと考えています。確かにこれらを達成する楽しみは仕事としても十分だとは思います。ただ自分の経営する農場で、自分が直接お客様と関わることによって一番達成感を感じられるのではないのかと感じ、その中で自分の好きなこの農業を表現、そして人に直接伝える方法はどのようにすればいいのか?と考えるようになりました。先人達が食べていくため、生活するために必死に考えてきたこの術や、生きものを育てる楽しみをいろいろな人に伝えたい。ただどう伝えればいいのか分からない。
そんな時にたまたま飛び込んできた「まつだい棚田バンク」のスタッフ募集。あの強烈なインスピレーションを受けた「大地の芸術祭」の中で農業ができる! 芸術祭を通してたくさんの方に農業を伝えることができる!
心が躍ったのを覚えています。
まつだい棚田バンクでは、年に数回棚田のオーナーさんと農作業や交流ができる体験イベントを行っています。このイベントを通して私が伝えたかった収穫する喜び、収穫するまでの農作業の楽しさをたくさんの方に伝えられるということを嬉しく思います。またこれから大きくなっていく子どもたちに農業を通して、食の大切さ、食べることの喜び、そして昔私が感じた衝撃や感覚を味わって欲しいです。
稲刈りイベントの様子(左端の男性が著者)
さて、冬になり農業もシーズンオフになります。しかし百姓には春の準備があります。
こちらの地域では、「天水田(てんすいでん)」という雨水や雪解け水を使用する栽培を行っています。そのため、溜まった水を大切に扱わなければなりません。水を溜めるうえで大切なのが秋代掻き(あきしろかき)という作業です。代掻きという作業は普通、春の田植え直前に行う作業です。この作業を秋に行っておくことで田んぼの地中に入ったヒビを泥で埋め、溜まった水を漏らさない田んぼをつくることができるのです。来年も皆さまにおいしいお米をお届けするために、稲刈りが終わった直後から田んぼを直したり機械を整備したりと、春に向けての百姓の仕事は始まっています。
秋代掻きの様子
農業にはマニュアルがありそうでありません。百姓それぞれの考えや先人のやり方によって個性豊かな田んぼや作物に仕上がります。
芸術祭でアーティストの表現したアートをご覧いただくとともに、私たちが表現したスタイルのある農業も楽しんでいただければ嬉しいです。
まつだい棚田バンク
石塚康太
棚田バンクの耕作スタッフと(左から4人目)
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