運営 / 越後妻有の舞台裏から
29 July 2020
Photo by YONEYAMA Noriko
2019年12月、本格的な冬がくる前の少し緊張感漂う季節。松本秋則さんと倫子さんが、2020年春から始まる予定の企画展に向けて視察に来られたが、その後は感染症の影響で春の開館も企画展も延期に。ようやく7月23日から「自由はOK‼」展と「風が奏でる竹の音」展を2企画同時で開催することが出来た。
Photo by YONEYAMA Noriko
穏やかな性格の秋則さんと天真爛漫な倫子さんはご夫婦で、別々に活動をされている作家さん。秋則さんは2015年の「大地の芸術祭」や「瀬戸内国際芸術祭」に参加されていて、竹を主に使った作品「サウンド・オブジェ」を長年作っている。作品は、あえてプランを立てず、竹と対話をしながら独特な構造を作りあげるという。アジアを中心に旅をし、出会ったさまざまな民族楽器もヒントにしているそうだ。今まで約300種を発明してきた。展覧会では何種類もの作品を同じ空間に配置し、その場の自然音も含め、偶然から生まれる音の重なりを表現している。
さまざまなポーズで描かれる「ほっぺ」 Photo by YONEYAMA Noriko
一方、倫子さんは2000年に統合失調症を発症したが、2010年に飼い猫の「ほっぺ」の絵を描きはじめた。その習慣は毎日続き、この10年間で数千点もの作品を生み出しているのだ。倫子さんの一日は愛猫「ほっぺ」を描くことからはじまる。描く最中は何も考えず「無」の状態で手が動き一気に描き切る。色合いはアクリル絵の具の中から目に留まったものを選ぶ。特に、美術の専門的な勉強をされていないという倫子さん。はっきりとした緻密なラインで色鮮やかに描かれた模様は、鮮烈に脳裏に焼き付き、一度見たら忘れられない作風だ。現在は国内外に招待され、色彩と想いが溢れたほっぺの姿が多くの場所で喜ばれている。
「サウンド・オブジェ」は不思議がいっぱい
倫子さんの「ほっぺのぬりえ」コーナーは大人気
竹取の様子
秋則さんの作品には竹が欠かせないが、豪雪地帯では育ちにくい太い竹。普段からお世話になっている鉢集落の尾身浩さんに相談すると、地元ネットワークを生かし色んな人に聞いてくれ、津南町の反り目さんご夫婦のお家の竹をいただくことになった。天候にも恵まれ爽やかな風が吹くなか、鉢集落の男衆と反り目さんご夫婦と一緒に竹取作業を行った。
オロナミンC
休憩にはオロナミンCを飲み、地元の食堂「たからや」で有名な「大名かつ丼」を昼食に。午後は「愛は勝つ(丼)!」と、みんなでわいわい冗談を交えながらの作業。あっという間に80本近い竹を伐採した。
竹取に協力してくださった尾身浩さん(左)と津南町の反り目ご夫婦
秋則さんは”the雨男”。元々晴れ予報だった7月中旬は、秋則さんの制作が近づくとたちまち雨マークに。しかし制作初日は奇跡の晴れ!地元サポーターさんと元気いっぱいに作業がはじまった。活動のない時期が続いていた反動か、皆さんはマスクをしながら、汗をかきながら、水分を取りながら、いつも以上にいい動き。お陰で2日間予定していた外作業が1日で終了。
久しぶりの活動に汗を流してくださった地元サポーターのみなさん
地元サポーターの皆さんの参加に、秋則さん(青いTシャツ)も倫子さんも大喜びでした。
倫子さんは病気の関係で午前中のみの制作。毎日描く習慣があるので、集落の方からいただいた冬瓜や流木にもほっぺ柄を描いてもらった。実は、6月下旬にほっぺが亡くなってしまい、悲しみの中で来ていただいた制作。
夕顔(じもとでは「ゆうごう」と呼ぶ)に絵をかく倫子さん
流木に「ほっぺ柄」を描く倫子さん
「ほっぺがいなくなったから、これから私は何を描けばいいのかな。」とつぶやいていたのが印象的だった。流木に描き切った時、「見て!これ、しずか(美術館のヤギ)に見えるでしょ!」と笑顔で見せてくれた。
ヤギのしずかになった!流木作品
竹の素朴で心地いい音が美術館中に響きわたる。秋則さんは、「この作品は、風を視覚と聴覚で感じられる作品なんだ」と言う。また、「作品が動くようにつくるのは簡単だけど壊れないようにつくるのに35年かかった。一度作ったらその後同じのをつくるのに時間はかからないけど、はじめの一点をつくるのに何十年も試行錯誤するんだ。自分がこうと思ってつくるとなかなかうまくいかない。竹がこうして欲しいという気持ち寄り添って制作しないとだめなんだよね。」と。ふと、田島征三さんを思い出す。木の実の作品をつくるときも似たようなことを仰っていた。
Photo by YONEYAMA Noriko
本当は、この二つの展覧会で田島征三との共同制作が予定されていた。コロナの関係で実現はできなかったが、今の困難が多い世の中をそっと優しく解きほぐしてくれるような空間が完成した。来館する人たちが、空間絵本とヤギとほっぺと竹の音色によって、自由な気持ちになってくれたらいい。
Photo by YONEYAMA Noriko
これから11月23日の美術館冬期休館まで展覧会は続きます。爽やかな風の音を聴きに、また、愛らしいほっぺに会いに来てください。
絵本と木の実の美術館スタッフ 三輪真弓 (NPO法人 越後妻有里山協働機構)
施設紹介
住所:〒942-1402 新潟県十日町市真田甲2310-1 TEL&FAX:025-752-0066
公式HP:http://ehontokinomi-museum.jp/
Photo by ISHIZUKA Gentaro
Profile
松本 倫子 Michiko Matsumoto
1973年 生まれ。
2000年に統合失調症を発症。2010年スタジオクーカに入り、人に対して壁を作ってしまう自分を簡単に飛び越えてくる天真爛漫な人たちに出合いリラックスして絵を描くことができるようになる。2011年ほっぺ(猫)を動物愛護協会から譲ってもらう。2015年ART FAIR 東京出展、ほか、ジャンルにとらわれず、様々な活動を展開中。
松本 秋則 Akinori Matsumoto
不思議美術家。1951年生まれ。
1980年代より音の出る作品(音具・サウンドオブジェ)を創作して、美術館や野外など様々な場所で自動演奏による音のオブジェを展示する。作品の素材は主に竹を使用し、演奏の動力は電力や人力、風や水など自然エネルギー等を利用する不思議美術家。
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「トペラトト クラブ」は、絵本と木の実の美術館をもっと身近に楽しみたい方・一緒に盛り上げたい方・応援をしたいという方のために、さまざまな角度から美術館を体験できるサポート活動。また、絵本と木の実の美術館独自の持続的な芸術文化活動・環境に配慮したアート活動・運営面も含めた取組を、幅広い方々に支援していただける仕組みになっています。
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