空からポツリと降り注ぎ、土・草・生物の中を通過し続ける水。マスキングテープに描く「マスキングプラント」、白いゴム素材を焼付ける「白線」、土と水で描く「泥絵」など様々な手法で動植物を描いてきた作家が、今回はあらゆる生命にとって必要であり、地球上でどこにもとどまらずに旅する「水」を核に、その記憶と記録を壁画にする。
physis【ピュシス】-水の時間、土の時間
一見同じように思える家の壁も、よく見ると高ところと低いところで、あるいは真ん中と端っこで違いを見つけることができる、まして屋外の高さ10m、横幅70mもの壁面になれば、そこには無数の痕跡を読み取ることができる、コンクリートのヒビの枝分かれ、雨水の通り道、表層の粒子の細かなところ、荒いところ、そんな風に一つの壁という物質も時間の経過を追いながら小さく小さく観察して、その分解された情報を元に再び再構成してみれば、初めまっさらだと感じたものとはもう別物のように思えたりする、その上で、エイっと筆を入れていく。 そんな風にして描くことは常にまっさらから始まることはなく、何か気の遠くなる程複雑な世界といつも地続きにつながっている。
同じように自分の描く絵も作品の大小に関わらずいつも小さなものたちの集まりで形が作られている、そして命がポツンと一つであることが無いように、すべてのものが絡まりあい、押し合いへし合い流れを作り大きくなっていくのを楽しみながら作っている、そんな時絵は【完成させる】、というよりも【育てる】という言い方がしっくり来る。
この場所でのびのびと絵をいかに育てることができるか、環境を理解し、素材と仲良くなり、変化を受け入れ完成を時間いっぱいまで先送りにする事ができるかどうか、そんなことを考えながらたくさんの人々の手をお借りしながら、絵を描いていく。
制作の途中【絵を描くのはこんなにも楽しい】と、さんざん理解していたことを忘れていたことを思い出すかのようにふっと思う、その瞬間に時間はぎゅっと圧縮されて、本当は今ここからがスタートでもっと遠くへ行けるような気持ちになる、まだまだ先は果てしなくそのことに不思議な気持ちになる。 そしてその気持ちを持ったまま世界を見つめ直すと一つの壁の見え方がガラリと変わった時のように、世界の見え方が変わっていたりする、私は絵を描くことで世界を学んでいる。
作品名の【physis】は古代ギリシャ語で変化する現象の根底をなす永遠に真なるもの、しいてはありのままの自然を意味します、土の竜と水の竜、二つの別々の流れを重ね合い無数の小さな生き物たち、小さな丸や一粒の点々まで、近くに展示している2015年に制作した【チョマノモリ】と同じく、全景をみるだけでなく、沢山の細部を巡っていく季節とともに、変化を楽しんでもらえたらと思います。
作品番号 | T421 |
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制作年 | 2022 |
時間 | 日中 |
料金 | ー(期間によっては作品鑑賞パスポートや共通チケットを販売) |
休館 | 祝日を除く火水定休(定休日も屋外作品は鑑賞可) |
エリア | 十日町 |
集落 | MonET |
マップコード | 140181258*11 |
公開期間 | 通年公開(祝日をのぞく火水定休) |
場所 | 新潟県十日町市本町6-1 |