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芸術 / カタルシスの岸辺

マテリアルショップ カタルシスの岸辺 十日町店 &「死蔵データGP 2022-2023」記録展

越後妻有MonET 連続企画展Vol.1

芸術 / カタルシスの岸辺

マテリアルショップ カタルシスの岸辺 十日町店 &「死蔵データGP 2022-2023」記録展

越後妻有MonET 連続企画展Vol.1

グランドオープン!【マテリアルショップ カタルシスの岸辺十日町店】

対談:作家「カタルシスの岸辺」× ゲストキュレータ―椹木野衣

28 July 2023

2023年7月より開催されている「越後妻有MonET 連続企画展」では、ゲストキュレーターをお迎えし、これからの美術を切り拓く作家の展覧会を企画します。新たな試みの第1期を飾る、作家「カタルシスの岸辺」のメンバーとゲストキュレーターの椹木野衣さんにお話を伺いました。

「カタルシスの岸辺」
荒渡巌、海野林太郎、高見澤峻介を中心に2017年に東京で結成された「マテリアルショップ」である。プロジェクト毎に参加作家が変わるが、2019年に髙橋銑が退店、2023年現在は田中勘太郎、大山日歩、宍倉志信、鈴木雄大、岡千穂、みずしまゆめを含めた9人をコアメンバーとして活動している。 「ショップ」であることを核としつつ、既存のアートシーンの経済システムに依らぬ、独自の生存戦略の確立を試行する。

企画展に開催にあたり

はじめに、椹木さんが今回「カタルシスの岸辺」を推薦された経緯を教えてください。

――椹木さん
北川ディレクターの新しい試み(越後妻有MonET 連続企画展)に際して、大地の芸術祭に新風を吹かせたらと思いました。
企画展の会期がちょうどお盆や終戦の時期と重なる日程だったので、作品である死蔵データ*¹とも関連があるなと思い、お声がけしました。
昨年、カタルシスの岸辺(以下、「カタ岸」)が開催した「死蔵データGP 2022-2023」*²の審査員を僕もさせてもらっていたのですが、そのグランプリが昨年2022年で終わりのはずだったが、終わらなかった。最終決戦は見切り発車的なところで始まったのでしょうか?

――荒渡さん(カタ岸)
年内に終わらせたかった、終わらせられなかったという感じです。

――椹木さん
終わりは始まりというような、延長戦があるんじゃないかなと思ったタイミングだったことも(お声がけした理由に)あります。

――みずしまさん(カタ岸)
「死蔵データGP 2022-2023」の最終決戦をどう終えるか考えたとき、みんなで盆踊りをしようとなりました。死者を祀る?みたいな感じでしょうか。

――荒渡さん(カタ岸)
そのイメージ(死蔵データを祀る)は最初からあって、最終決戦は冬でしたが、「カタ岸音頭」という曲を作ってもらい、流しました。

――椹木さん
当初、最後は集めた死蔵データを海に流すっていう話も合ったじゃないですか。広島の原爆の燈籠みたいな。

お蔵入りしたデータを供養するという感じですか?

――荒渡さん(カタ岸)
供養というよりも、浄化ですかね。「カタルシス」はもともと“浄化”という意味ですからね。

――椹木さん
「岸辺」っていうのも、三途の川じゃないですけど、境界ですよね。あっちの世界、こっちの世界みたいな。あと、大晦日的な感覚もありますよね。「ゆく年くる年」「除夜の鐘」とか。

プロフィール

椹木野衣

1980年代末から美術を中心とする評論活動を始める。主な著作に『シミュレーショニズム』(増補版、ちくま学芸文庫)、『日本・現代・美術』(新潮社)、『戦争と万博』、『後美術論』(第25回吉田秀和賞)、『震美術論』(平成29年度芸術選奨文部科学大臣賞、以上、美術出版社)など多数。ゲスト・キュレーターとして「アノーマリー」(レントゲン藝術研究所)、「日本ゼロ年」(水戸芸術館)、「平成美術 うたかたと瓦礫(デブリ)1989–2019」(京都市京セラ美術館)など。

*¹【死蔵データ】
公開していない、誰にも見せる予定のない、自分しかその存在を知らないデータ一般。拾い物ではなく、自分自身が生成したものであること。

「死蔵データGP 2022-2023」
カタルシスの岸辺が自主企画で開催した、賞金付きコンペティション(優勝賞金10万円)。2022年6月より1か月間、WEB上にて死蔵データを募集し、応募総数254件が集まった。73名の審査を経て、2023年3月に決勝戦が行われた。

【死蔵データGP】最終決戦/カタルシスの岸辺公式Youtubeチャンネルより

「死蔵データGP 2022-2023」の予選から決勝戦までの審査様子は、Youtubeにて現在公開中。今回の企画展では、「死蔵データGP 2022-2023」審査過程のアーカイブ展示を館内特別展示室にてご覧いただけます。

 

『死蔵データグランプリ2022-2023』記録展(館内 特別展示室)photo by Nakamura Osamu

越後妻有MonET 連続企画展 Vol.1

越後妻有MonET 連続企画展 Vol.1では、特別展示室での「『死蔵データグランプリ2022-2023』記録展」にくわえ、美術館エントランス前で屋台を模したインスタレーション「マテリアルショップカタルシスの岸辺  十日町店」をオープン。

「マテリアルショップカタルシスの岸辺 十日町店」(美術館 エントランス前)photo by Nakamura Osamu

企画展が始まってみていかがですか?

――海野さん(カタ岸)
今回初めて売りだけでなく、買取も始めてみましたが、結構面白いです。普通、美術館行ってお金がもらえることってないじゃないですか。お金もらえるならちょっと頑張ってデータを出してみようかなってなる瞬間、意識が死蔵データに向けられる。

――椹木さん
買取は今までしていなかったということですが、これまではどうやってデータを手に入れていたんですか?

――荒渡さん(カタ岸)
基本的には委託販売で、売上を折半するという形でお預かりしていました。「死蔵データGP 2022-2023」の決勝戦を経て、ようやく査定をプログラム化できました。

「死蔵データGP 2022-2023」決勝戦の様子

アーティストではなく、ショップ店員であるとき

カタ岸の皆さんは、普段は別々のプロフェッションを持って活動されていると思いますが、カタ岸としてショップ店員になるときは違った感覚なのでしょうか?

――荒渡さん(カタ岸)
他のアーティストコレクティブ*³がどうかはわかりませんが、僕たちはまったく意見が違って良いという感じですね。ゆるい繋がりを大切にしています。役割みたいなのもほとんど決まっていません。

――椹木さん
店長以外の肩書きってあるんですか。

――荒渡さん(カタ岸)
ないですね。対外的な窓口として店長というのがあるといいなと思ったので、今は僕が店長を名乗っていますが、店長もなくしてよいかなと思っています。

――海野さん(カタ岸)
荒渡さんは本当の意味で店長で、何かの方針を決めてとかっていうことではなくて、経理と事務連絡をする担当です(笑)

――荒渡さん(カタ岸)
あと掃除ね(笑)

――みずしまさん(カタ岸)
まかないも作ってくれていました。

――荒渡さん(カタ岸)
個人的にいうと、美術家の繋がりというよりかはバンドみたいな感じですね。できる楽器が違うみたいな。そういうニュアンスの方がしっくりきます。

――大山さん(カタ岸)
普段は全員美術家として活動していて、美術の見せ方というものがそれぞれあるけれども、ショップ店員としてはまた違う。そこで脳が切り替わるというか、普段生活していてショップの見せ方もリサーチしなくちゃいけないという感覚が面白いですね。

――椹木さん
買取ショップとか?

――大山さん(カタ岸)
そうですね、ハードオフだったりとか。

*³アーティストコレクティブ
アーティストによって形成されるグループ・団体。

無人販売所のリサーチ

――海野さん(カタ岸)
今回の企画展で新しく導入した、 Zoomの遠隔の販売管理システムは、 無人販売所の仕組みを参考にしてます。 武蔵村山にテスト店舗があった古着の無人販売店「秘密のさくらちゃん」は特に面白かった。  2020年の1月にオープンしたんですが、緊急事態宣言中も24時間開いていて、zoomで遠隔店番をしている。誰かが入ると買い方のアナウンスが流れて、 「AIブッタ」という券売機で食券みたいなものを買ってZoom越しの店員に見せると、服と交換できるみたいな流れですね。

――椹木さん
監視カメラというよりも、誰か見てるっていう感じですかね。

――海野さん(カタ岸)
そうですね。 コロナ禍に生まれた非接触型店舗というだけでなく、子どものそばにいつつ仕事もできるようにとか、障害を抱えつつも家から運営できるようにとか、そういった考えでも仕組みができてて、これを見たときは感動と同時に悔しかったですね。ショップとしても表現としても、カタ岸よりずっと尖ってると思いました。

完全にショップ店員の考え方ですね(笑) これが2020年に展示された《我無尽どっと混む》*⁴の無人販売ショップのアイディアになったのですか?

――荒渡さん(カタ岸)
別の展覧会の時にも無人でやらなくてはいけないときがあって、リサーチするなかで今の形になりました。その時は野菜の直売所とか、いろいろな無人販売所を見て回っていました。

――椹木さん
野菜も無人販売ですもんね。あれはでも監視されていないですよね?

――海野さん(カタ岸)
監視しているところもありました。

――椹木さん
草むらから覗いてるとか?

――海野さん(カタ岸)
ちゃんと監視カメラをつけているところもあります。

――荒渡さん(カタ岸)
野菜を盗んだ人の写真がいっぱい貼ってあるとか(笑)

――海野さん(カタ岸)
あと、お金入れるところが「真実の口」みたいなのもありました。木彫で彫られていて。

――荒渡さん(カタ岸)
鳥居効果みたいなもので、「ここの前では正直でならなければならない」みたいな心理的な暗示をかけているものもありました。

――椹木さん
賽銭箱方式なんですね。

――荒渡さん(カタ岸)
こんな風にショップについて日頃から考えているという感じですね。

――海野さん(カタ岸)
コンセプト的には「秘密のさくらちゃん」がダントツで面白かったね。

――大山さん(カタ岸)
「秘密のさくらちゃん」は人っぽいのがいいんですよね。都市の無人販売所は完全にシステム化してしまっているから、効率が重視されてしまうので。

――荒渡さん(カタ岸)
査定だったり、遠隔で繋ぐといった部分は、今回新しい試みですね。屋台自体も新しいですしね。

――椹木さん
ショップが観音開きになっているのも初めてですか?

――海野さん(カタ岸)
そうですね、可動式なのも初めてです。

――大山さん(カタ岸)
意外とちゃんとした屋台を作ったのは初めてだよね。

――椹木さん
観音開きは御開帳ですよね。開くと死蔵がでるという(笑)

――海野さん(カタ岸)
あんまり意識していなかったけど、たしかにそうですね。

――大山さん(カタ岸)
販売するカードを効率よく収めるシステムとして、観音開きっていうのは決まっていましたね。初めはひさしを作りたくて上に開くことも考えていたのですが、それだとカードを置ける場所が少なくなってしまう。

観音開きで販売カードを陳列できる仕様の「マテリアルショップカタルシスの岸辺 十日町店」

――椹木さん
そういう意味で、チラシも作品ですよね。あれは大地の芸術祭でも前代未聞じゃないですか?

そうですね。芸術祭では、こういった感じのチラシはなかなか作らないです。

越後妻有MonET 連続企画展Vol.1「マテリアルショップカタルシスの岸辺  十日町店 &『死蔵データグランプリ2022-2023』記録展」チラシ

*⁴《我無尽どっと混む》
2020年に東京芸術大学美術館 陳列館にて展開された無人販売所

販売・査定・買取。ご一緒にいかがですか?

今回の企画展では、こへび隊*⁵向けにショップ店員を募集していますが、カタ岸のメンバー以外が店員をやるというのも初めてですよね。

――荒渡さん(カタ岸)
こへび隊の方が本当に熱心に知ろうとしてくれて、設営のときは展示の改善案をバシバシ言われました。ご縁ができて、ありがたいです。今までは東京でやっていたので、アートファンだったり近しい人にしかリーチできなかったところを、地域のこへび隊の方を通して、じわーっと浸透していったらいいなと思っています。

――みずしまさん(カタ岸)
この十日町でしか出てこないデータが集まると面白いと思いますね。

――大山さん(カタ岸)
新しいお店ができたらとりあえず見に行くじゃないですか。そんな感じでフラっと来てもらいたいですね。スーパーかな?みたいな感覚で。

――椹木さん
当初考えていたときは、ショップの名前は「十日町本町店」でしたっけ?

――海野さん(カタ岸)
そうですね、ここ(美術館)の住所です。でも地域の人に本町ってあまり言わないよって言われて「十日町店」になりました。

――椹木さん
その辺の微調整も面白かったですね。土地の人の考えというか、夏のイベント「死蔵データGP 北信越大会 2023」の名前を考えるときもそうでしたが。

――海野さん(カタ岸)
夏にここで行う「死蔵データGP」の名前を考えていたとき、「新潟大会」は違うなと思っていて、サッカーとか野球のリーグだとこの地域は「北信越」だったのでそうしました。

――荒渡さん(カタ岸)
決め手は、FC越後妻有のサッカー選手がいることですね。

ちょうど今、「北信越女子サッカーリーグ」のシーズン中です。

――椹木さん
全国大会の地方予選の枠組みみたいな感じですね。

カタルシスの岸辺と美術館に勤めるFC越後妻有の選手

*⁵こへび隊
大地の芸術祭のサポーター。今回の展示の運営サポートでは、マテリアルショップの店員として、査定や買取にも携わることができます。

方丈的インスタレーション

――椹木さん
カタ岸のショップは、方丈的なものでもあるんじゃないかなと思っています。中に特別展示室がありますが、カタ岸なら外でもできるんじゃないかなと。お声がけする時に店舗がいいんじゃないかと思いました。
大地の芸術祭でも、方丈をテーマにした展示がありましたよね。

2018年の芸術祭では、四畳半の空間をベースに複数の作家が参加する企画展*⁶をやりました。

――椹木さん
今年は夏もMonETの池の周りにお店がでるんですか?

TSUMARI BURGER*⁷を回廊で販売します。

――椹木さん
縁日感があっていいですね。

――海野さん(カタ岸)
夏祭りっぽくなりますね。

お気軽にお立ち寄りください。

――椹木さん
「死蔵データ」っていう新しい概念ができて、それは美術の中から生まれてきたのかもしれないけれど、それは誰にでも思い当たる節がある。その人はその人の「死蔵データ」を持っていて、その蓄積がその人の人生と言える。気が付けば、本当に面白い掘り起こしがあるんじゃないかな。お客さんにもその見方が伝わって共有されると、どんどん世界が広がるのではないかなと思います。

――荒渡さん(カタ岸)
今回、買取の予算たくさん用意しているのでぜひ売りに来てください!死蔵データと向き合って、楽しい時間を過ごしてください。

テキスト・編集:丸尾葉那(NPO法人越後妻有里山協働機構)


photo by Kioku Keizo

■越後妻有MonET 連続企画展Vol.1「マテリアルショップカタルシスの岸辺 十日町店×『死蔵データグランプリ2022-2023』記録展

【ゲストキュレーター】椹木野衣(美術評論家)
【会期】7月1日(土)~8月27日(日)火水定休 10:00~17:00(最終入館16:30)
【料金】個別鑑賞券(一般1,200円/小中600円)、または「2023年の越後妻有」共通チケット※マテリアルショップカタルシスの岸辺十日町店のお立ち寄りは無料

■関連イベント「死蔵データGP 北信越大会 2023」

企画展にあわせて、会期中の8月12日に、スマホに埋もれた写真など、自分しかその存在を知らないデータ同士が競い合う「死蔵データGP」の特別出張営業版も実施します。マテリアルショップカタルシスの岸辺十日町店にて、死蔵データをぜひエントリーしにいらしてください。

【日時】8月12日(土)13:00~16:00
【会場】越後妻有里山現代美術館 MonET 回廊
【参加費】無料
【参加方法】
■「死蔵データGP北信越大会」へ参加希望の場合

①マテリアルショップカタルシスの岸辺十日町店にて死蔵データの買取りを行ってください。(※詳細は店頭にて。買取りは金土日に実施中)
②買取りのデータ送信時に「死蔵データGP北信越大会」に参加の可否を入力する項目がありますので、「参加」をお選びください。買取りと同時に自動エントリーになります。
■「死蔵データGP北信越大会」ご見学希望の場合
当日開催場所に直接お集まりください。

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